四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「その術士の“お試し”は、俺がしていい?」
「駄目」
「即効却下かよ!?」
「契約術士の“お試し”、は赤の竜騎士団の現団長であるクルシェーミカの仕事だもの」
「あいつはカイユにやられたところが、まだ完治してねぇだろ? 喉踏み潰されて声が出ねぇし、指もねぇから刀もろくに握れねぇだろう!?」

 普通の竜騎士は、<色持ち>の俺みたいな再生能力速度は保持していない。
 しかも、クルシェーミカ……ミカは竜騎士団の団長としての仕事を優先して、溶液に漬かる時間を全くとっていない。
 だから、ミカの指が全部完全に生えそろうのにはまだまだ時間がかかる。、
 マーレジャルは手加減が苦手なカイユがわざわざ……親切に、くっつけやすいような位置で綺麗に切断してくれた。
 そのおかげで溶液に入らなくても、切断された腕を補助具で固定するだけで済んだ。
 でも、元通り動かせるまでは半月はかかるだろう。
 再生能力、か……今の俺には、青の大陸に渡る前のような再生能力はない。
 それどころか、認めたくはねぇけど日に日に…………カイユや母さん達の前では、治癒に時間のかかるような怪我はしねぇようにしねぇと。

「完治してなくても、術士の"お試し”くらいできるわ」
「俺がいるんだから、俺を使え。俺が働くから、ミカは休ませてやってくれよ」

 俺が青の大陸に行っちまって、一番の貧乏くじを引かされちまったのはあいつだ。
 副団長だった、クルシェーミカだ。
 ミカは人望があって実力もあるが……竜騎士じゃなかったら花屋になりたかったって、昔、俺に話してくれた……あいつも竜騎士だから笑って人を殺すが、人殺しより花を愛でるほうがミカは好きなんだ。

「あいつだって好きで竜騎士に生まれて、なりたくて団長やってるわけじゃねぇんだからよっ……他になれる奴がいないから、仕方なくやってくれてるんだ……」

 俺が抜けた後の赤の竜騎士の在籍数は、見習い扱いの幼竜達を含めて二十一……青の竜騎士団よりずっと多いが、赤の竜騎士団にはずば抜けて強い個体ってのがいない。
 俺の抜けた赤の竜騎士団で一番強い個体である現団長のクルシェーミカすら、考えていた以上に簡単にカイユにやられちまった。
まぁ、俺のカイユは確かに強い……青の竜騎士ってのは個体数は少ないが、赤の竜騎士と比べると一個体の持つ能力が高い。
 その青の竜騎士団の団長として父親より年上の、あの一癖二癖もあるもおっさん竜騎士達……プロンシェンやニングブックを顎でこき使えてたのは、怖ぇ父親がバックで睨みをきかせてからじゃない。
 カイユ自身が、彼奴等より『上』だったからだ。

「……ダルフェ。貴方は闘うのに声が要るの? 刀を握るのに指が必要?」
「指なんか要らねぇよ、俺は」

 闘うのに要るのは、この命。
 竜騎士が闘うのは本能、だ。
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