四竜帝の大陸【赤の大陸編】
クロムウェルは満足気に頷き、そんな彼に僕は訊いた。

「ねぇ」

気になるのは、僕にはよく分からない『過干渉』なんて術式用語のことじゃなく。
この一点。

「導師(イマーム)もあの王宮術士の術式の失敗に何かしら関係してたなら、<監視者>の処分対象者になるってことだよね?」

僕の問いに、クロムウェルは頷く。

「なら、僕等竜族にとっては好都合だ。まぁ、<監視者>のつがいであるあの子を狙ってる時点で、あの人に<処分>されること決定だけどね」

美しい少女の姿をした導師は、僕の言葉に両の口の端を吊り上げて大声で笑い出した。

「くけけっ、くけけ……あひゃっ! あひゃひゃひゃ! ヴェルヴァイドにそれを教えるなんてできないよぉおおおお? あひゃひゃひゃぁああああっ!」

ふわりとワンピースの裾を舞わせながら、左足を軸にして導師は踊り子のようにくるくると回転し、笑い声とともにその動きをぴたりと止めた。

「無理。お前等、此処で死ぬんだからねぇええええ!!」

まるで、そこだけに乱気流が発生したかのように少女の髪が四方に流れる。
その髪とは対照的に、ワンピースはレースの飾りすら動かない。
作り物のような造作の目鼻も、仮面のように表情を消し去った。

「まずはお前だよおおおお! 竜帝の犬になり下がった屑っ!!」

同時に、閃光。

「クロムウェルッ!」

刀がこの手にあろうがなかろうが。
僕は自分のすべきことを、する。  

僕は避けられるが。
障壁の術式を展開中のクロムウェルには、無理だから。

婿殿、君と約束した。
クロムウェルは、生きて……『使える状態』で帝都に帰すと。
術式が使えない竜族が。
術士とどうやって戦うのか。

答えは一つ。
肉体の持つ『力』だ。
種も仕掛けも無い、単なる力技。

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