四竜帝の大陸【赤の大陸編】
床に転がる僕の腕は、刀を握ったままで……位置は導師の斜め左の後方、4ミテほどの距離。
さて、どうするか。
まぁ、腕一本だって闘えるけど。
僕は刀を使ったほうが、力の調節がし易い……。

「あのような低俗な挑発にのるなど。貴方らしくないですね、セレスティス殿」
「そう? どうせ仕留めるんだから、結果が同じならのっても問題無いでしょ?」
「まぁ、そうですが。貴方は珍しい特殊個体なんですよね? 腕、すぐに生えるのですが?」
「あのねぇ、そんな都合よくいくわけないでしょう?」
「そうですか。意外と普通なんですね」

肩から下、右腕を失った僕を案じるなんて事は、このクロムウェルという男はしない。
<竜騎士>である僕が腕1本失った程度では、引くことは無いと分かっているからだ。

「普通……ね、初めて言われたよ」

こんな僕だけど、痛覚は普通の竜族同様にちゃんとある。
腕を失えば相応の痛みを感じるし、痛みは現在進行形だ。
痛いけれど、この肉の痛みは。
僕にとって、単なる痛みであって『苦しみ』じゃない。

「クロムウェル。導師は術式を“出す”速度が異常に速かった。あの速度で術式を使えるなんてね……しかも、導師は発術前の基点の“揺らぎ”すら、無い。これってどういうことだと思う?」

内障壁を外障壁に変えていたために、クロムウェルの術式内で他者が術式を展開しても反発による衝撃がほとんどない無い。
けれど、クロムウェルの眉が不快そうに寄せられていた。

「……まさか……いや、これほどの術士ならば可能なのか?」
「クロムウェル? どうしたの?」
「セレスティス殿。貴方の質問の前に、私が気づいたことを先に言ってもよいでしょうか?」

クロムウェルは片腕を無くした僕の横に並び、導師を見つめながら言った。 

「いいよ」
「推測ですが。ミー・メイの術式は導師に『過干渉』されたのです。ですから<監視者>の処分対象にならない無機物ではなく、あのお嬢さんが……私の考えは合っていますか? 導師」

その硬い声に返されたのは。

「へえぇええ~、すごいじゃぁああん! お前はなかなか頭が回るんだねぇえええ! 脳まで筋肉じゃあないんだねぇええぇ~、あひゃひゃひゃぁあああっ!」

上っ面だけの賛美の言葉と、嘲笑だった。
でも、それで十分だ。


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