四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「あ、一応言っておくけどね。あんたの着てたドレス、もう売っちまったよ? アレ、すごかったねぇ。見てると吸い込まれて、心が青の中に溶けていきそうな……あんな綺麗な青、初めてだった」

竜帝さんが用意してくれたドレス、売られちゃったの!?
もしかして、ハクの欠片のネックレスも……。

「あの薄気味悪い術士があんたをここへ連れて来てすぐに、アリシャリがドレスを売るから脱がすって言って……私が脱がしてあげたんだ。あんた、私に感謝しなよ?……なによ、その顔? 竜族の感謝の顔って、それなわけ?」

言いながら、彼女は私へ近づいてきた。
私はそんな彼女から逃げるように、後ろへ後ろと……すぐに、背に硬い感触。
積まれた荷箱が背に当たり、これ以上下がれないのだと知った。
 
「ふん……ねぇ。あんた、元気そうだけど……どれだけ寝てたか、自分で分かってる?」
「、、、……?」

質問の意味は分かったけれど。
答えられなかった。
たとえ声が出たとしても、私は答えられなかった。

だって。
分からなかったから。
こんな質問をされるほど長い間、私は眠っていたっていうの!?

「何日も飲まず食わずでいたクセに、平気な顔して……見た目は人間と変わらないのに……ぞっとするね」

濃く太いアイラインに縁取られた瞳が、細まる。
彼女がその赤い唇に自分の指先を添えると、手首を飾っている銀細工のブレスレッドがシャラリと音を立てた。

「竜族の雌……初めて見たけど、想像してたのと違ってがっかりしたよ」

透かし細工がいくつも繋ぎ合わされ、持ち主の動きに合わせて雫のように流れて揺れていた。
そして、その手が私へと……。

「ドレスだけじゃなく、下着まで最高級の絹なんて。あんたって、まるで“お姫様”みたいよね」
「ッ!?」

いきなり、掴まれた。
胸を、ぎゅっと。
爪をたてられ、痛みに息を呑んだ。
口の端をあげた彼女は、私の左胸を鷲掴みにしたまま言った。

「ふんっ、貧相な胸」

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