四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「カイユよ」

我は跪くカイユに言った。

「お前が我を入れたあの塵箱は、なかなか居心地が良かったぞ? 礼を言う」

あの時。
四肢どころか頭部も落ちた我を拾い、カイユが無造作に投げ入れた容器が塵箱だということくらいは我にも分かったのだ。
屑箱、我が屑箱か。
長く生きてきたが、屑箱に入ったのはあれが初めてだ。

「…………お褒めに預かり光栄です、ヴェルヴァイド様」

眉を寄せて答えたカイユの髪が短く切られていることに、我は気づいた。
つがいであるダルフェはまだ死んでおらぬのに、髪を落とすとは。
ダルフェが死んだ時の葬式の予行練習を、<青>とでもしてきたのだろうか?

「え? 今の旦那の嫌味なんじゃねぇの? それとも旦那なりの冗談?」

足に下げていた雫型の籠を地に置き、竜体から人型へと姿を変えたダルフェが胡坐をかいて座りながら言った。

「この人が嫌味や笑いをとる高等な話術を持ってないことを、貴方も知っているでしょう?」

<赤>の言葉に同意しつつ、ダルフェは笑う。

「ははははっ、まぁね~」

竜体から人型へ変わったため、当然ながら裸であるに大口開けて笑う息子を、<赤>が眉を寄せながら窘める。

「ダルフェ、早く服を着なさい。貴方の持ってきた籠に衣服があるのでしょう?」
「あのねぇ~、露出狂手前の服ばっか着てるあんたに言われたくないんですけどねぇ? ん~、それに俺のは下着一枚持ってきて無いんだ。急だったから、必要最小限の物しか……俺、こっちに服置きっ放しだし困らないと思ってさぁ。あ、もしかして俺のは処分しちまった?」

赤い髪を掻きながら言うダルフェに、<赤>は苦笑しつつ答えた。

「貴方の部屋はそのままにしてあるわ。下着一枚捨ててなんかない……捨てられるはずが無いでしょう? 幼生の頃にお気に入りだったタオルケットも、ちゃんととってあるわよ?」
「なっ!? 頼むから、そんなのは捨ててくれよっ!」

ダルフェと<赤>のやりとりを見るカイユの表情は、穏やかで静かだ。



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