四竜帝の大陸【赤の大陸編】
カイユの踵を外そうと、黒いブーツの足首へと伸びた手は。
触れる前にその指先は。
カイユの刃に瞬時に全て刈られ、緩やかな弧を描き……庭園中央の池にぽちゃりと落ちた。
それを見た赤茶の髪の雌が、驚きと怒りで顔を染めて抜刀しカイユを薙ぎ払おうとして……。

「あ、あああ、ぁあぁああああっ!?」

叫んだ。
刃の煌きに数秒遅れての、叫び声。
落ち、地に染みを作るのは。

「さっさと拾ってつけなさい。動きだけじゃなく、判断も遅いお嬢さんね」

肘から切断された、雌の両腕だ。
 
「……ぐっ……マ……ジャ、ルッ……ぐがぁああああっ!!」

咽喉を踏みつけられながらもかろうじて発した声は、ごきりという音と共に潰れて消えた。

「私の言いたいこと、あなた達は理解できたかしら?」

朝から血生臭いことをするなと口にするような輩は、ここには居らず。
カイユの行いを嗜める者も存在せず。
我は、ただ眺め。
<赤>は苦笑し。
ダルフェは誇らしげに笑む。

「理解できないような低脳ならば。この先、赤の陛下のお役に立つことなどない」

竜騎士はその個体の持つ『力』で、上下関係が決まる。
つまり。
カイユはこれで『上』となり、カイユに踏まれている指を飛ばされた雄と腕を断たれた雌は『下』だということだ。

竜騎士に“対等”などない。
カイユは赤の竜騎士の団長を地に這わせることで。
それを、示した。





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