四竜帝の大陸【赤の大陸編】
「トリィ様に触れられず、苛立ったヴェルヴァイド様がセイフォンの離宮でむしった爪は、あなたが処理したのよね?」

その問いから、カイユも俺と同じ可能性を……何者かが<監視者>の一部だった“モノ”を手に入れようと動いているという考えに至ったのだとわかる。
俺は竜族にだけ聞こえる『声』で答えた。

==うん。旦那の爪は、セイフォンの竜宮にあるデル木……“ヒュートイルの木”の根元に埋めた。

「ヒュートイル? <親殺しの少年王>で有名な?」

==そう、そのヒュートイル王。あのデル木の下に埋葬されてるんだ。祟りがあるって迷信があるから、人間は近寄らないんだって旦那が言ってたんでそこに埋めたんだけどねぇ……まずいかもな。

「ええ。……青の陛下に竜騎士の誰かを派遣してもらって、念のため回収したほうがいいわね」

昔から、旦那の……<古の白(ヴェルヴァイド)>の血肉や体液を得た人間は、碌なことにならなかった……旦那と肉体関係をもった女達は第二皇女をみても分かるように、愛欲、嫉妬、憎悪にまみれちまって、結果は心身ともに地獄行き状態だ。
毒、に似ている。
人間の内部を、心を狂わせ腐らせる性質(たち)の悪い猛毒……『負』の影を濃くし、奈落に引きずり込む劇薬のような……姫さんに害が無いのは、体内に旦那の竜珠があるからだろう。
姫さんにとっては“真珠みたいに綺麗で食べると甘い”かけらだが、あの子以外の人間にとってあれは『負の種』だ。
それを手に入れる意図は、目的はなんだ?

==……カイユ。これは、俺の考えすぎかもしれないんだが。

俺の頭の中で。
舅殿と交わした言葉が、単語がちかちかと点滅する。
舅殿は、セレスティスは言っていたじゃないか……あの人、言い切ったよな!?



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