黄泉送り ~3人の悪霊と1つの願い~
▽縛られた想い

薄紫色の空を除き、周囲はすっかり闇に落ちた。

そんな中、自転車を漕いでいた足を止める。左側に小さな郵便局、右側に白壁のアパート。自転車を郵便局の前に停め、交通量が少なくなった道路を小走りで渡る。

郵便受けで、少女の自宅だと確認する。
「203号室か」
建物の真ん中にある階段を上がる。
階段を中央にし左右に2室ずつある、ファミリー向けのいわゆるコーポラスだ。


2階に上がり右側を見ると、203の表札。
大きく深呼吸し、呼び出しボタンを押す。
扉の向こう側でゴトゴトと物音がし、足音が近付いてくる。

チェーンが掛けられたままの扉が20センチ程開き、大きな瞳が俺を射抜く。
「どちら様?」
「和泉と言います。少しだけ、お話しいいですか?」

少女の母親らしき女性は、瞳を猜疑心に染めている。
「何かの勧誘?
それとも、萌香の事?
幽霊になって、交差点に出るから何とかしろ?
友達が呪い殺された?」

鉄製の扉が強く叩かれ、階段にガンッという音が響き渡る。
「それとも、男に入れ込んで、子供を放置した母親をなじりに来たの!?」

 



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