好きになった人、愛した人。
「チハヤを待ってた」


その言葉はどこか冷めていて、そして攻撃的だった。


なにか用事?


そう聞こうとする言葉を、矢原のにらむような視線に飲み込んだ。


「……移動しようか」


この時点で、あたしは午前中の講義をあきらめた。


矢原は返事をする代わりに背もたれにしていた校門の門柱から背を離し、先に歩き出した。


あたしは仕方なく、怒っているような矢原の後をついて歩くのだった。

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