好きになった人、愛した人。
あたしは、大きく息を吸い込んで、自分の服に手をかけた。


ボタンを1つずつ外していく。


本当は、わかっていた。


有生が用意した家庭教師を辞めるという、選択肢があることを。


でも、小刻みで震える手は確実に自分を追い込んでいく。


そして、ブラウスが音もたてず床に落ちた。


「この、傷は?」


わき腹にある昔の傷に奈生が触れて、ビクッと震えた。


「昔……」
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