不機嫌な果実
耳元で聞こえる声と、上から降ってくる声が重なった。

オレは驚き上を見上げる。

「凌也、うちで、晩御飯食べない?」

「…覗き見なんて悪趣味な奴だな」

「エ~・・・別に覗いてたわけじゃないわよ。

今、顔を出したところなんだから」

そう言ってブー垂れる桃子を見て、心がスーッと軽くなる。

そして、自然と笑いが込み上げた。



「・・・で?何で晩御飯?」

「お母さんもお父さんも、結婚記念日だとかほざいて、

娘を一人ほったらかしで、外食に出かけたみたいなの」


「…なんだよそれ」

「一人で食べるのもさびしいから、付き合ってよ。

おばちゃんにはもう凌也借りますって電話してるから」

そう言ってニッコリ笑った桃子。

…根回しの早い奴だな。



「・・・しゃーねーな・・・

着替えたらそっち行くから」

オレの言葉に、桃子は満面の笑みで頷くと、サッサと中にすっこんでしまった。

…ったく。

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