「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
「米山さん?」

不意に声を掛けられ二人同時にそちらを見た。そこに居たのは小柄な女性。緩くウェーブのかかった黒髪ロングヘアー。品のいいワンピースの上にデニムの上着をはおってカジュアルな雰囲気をかもしだしている。可愛らしさと上品さが共存している、そんな印象の若い女性。

彼女、どこかで見たことがあるような気がする。けれど、偶然にどこかでばったり会ったとしても、声を掛けられるほどは親しくはないはず。

「竹之内さん」

浩平がすぐさま彼女の苗字を呼び返して、愛想よく笑って見せた。どうやら『米山さん』と呼ばれたのは浩平の方だったようだ。私も『米山さん』ですけどね。

「わぁ、仕事以外で米山さんと会えるなんて、すっごい偶然! 嬉しい」

そう言って彼女は、両手を口の前で合わせて可愛らしい仕草を見せる。今にも飛び上がりそうなほど本当に嬉しそうだ。どうやら同じ職場のスタッフらしい。

二人のやり取りに入り込む隙なんかなくて、浩平の隣でただ呆然と突っ立っていると、

「杏奈、ほら、この店教えてくれた職場の子」

浩平が不意に私の方を向き彼女を紹介してきた。

ああ、と気の抜けた返事を返してしまった。ここで会ったのって本当に偶然なの? という疑心が沸く。

「薬師丸さんですよね? 私デイに居たんですけど、今月から米山さんと同じ5階に異動になったんです」

なるほど。彼女を見たことあると思ったのはそういうことか。

「一人?」

浩平が彼女に尋ねた。

「いえ、デイの薫ちゃんと一緒です」

彼女はそう答えて店の駐車場の方を振り返った。
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