淡い初恋
古典の授業でのことだった。先生に名前を呼ばれると冒頭を読むように指示された。「いづれの御時(おおんとき)にか、 女御・更衣(にょうご・こうい)あまた侍ひ給ひ(さぶらいたまい)けるなかに、 いとやむごとなき際(きわ)にはあらぬが、すぐれて時めき給ふ、ありけり。はじめより我はと思ひ上がり給へる御方がた、めざましきものにおとしめ嫉み(そねみ)給ふ。 同じほど、それより下臈(げろう)の更衣たちは、 まして安からず。」と読み上げると先生に現代語訳を言ってくださいと指示された。

予習してきたため、私は深呼吸をすると一気に言い始めた。
「どの帝の御世であったろうか、女御や更衣が大勢お仕えなさっていた中に、それほど高貴な身分ではないものの、きわだって帝の寵愛を受けていらっしゃる人がいた。入内(じゅだい)した初めから、私こそはと気位の高い女御の方々は、分不相応な者だと見下し、気に食わないと言わんばかりに軽蔑したり嫉んだりなさっている。同じ身分やその方より低い身分の更衣たちは、女御たち以上に心が穏やかではない。」

ドクン・・・・。

先生に「はい、結構」と言われると着席した。教科書を持ってる自分の手の震えが止まらなかった。

心なしか周りからひそひそ話やクスクスと笑い声が聞こえてくる気がした。

これって、今の私の状態と同じでないか。不相応な自分が龍くんと付き合っているなんて身の程知らずも甚だしいのではないか。


休み時間、女子トイレに行くと、早坂玲奈さんとその取り巻きに遭遇した。嫌だなぁと思いつつも気にしない風を装い、トイレに入ろうとしたら「やっと気づいたの?」と一人の女性に言われ、後ろを振り返った。髪を茶色くしてピアスもして明らかに風紀を乱したその女子高生が私に向かって言った。「ってか、なんであんたみたいな平凡で大したこともない女が千堂くんと付き合ってるわけ?あんた程度の女だったら私でもイケるじゃん。なんで?千堂くんってストライクゾーン広いの?」と聞いてきた。「い、いやその。」と口ごもると他の女子生徒は「ってか、身の程知らずなんだよ!千堂くんのように立派で素敵な人には玲奈の方がお似合いなんだっつーの!」と言ってきた。

こんな面と向かって罵詈雑言を言われると泣きそうになる。そう思い、早坂さんを見ると「千堂くんって優しいから、同情で付き合ってあげてるのよ。でも、早く彼の気持ちに気づいてあげてね?」と意味深なことを言ってきた。


私は耐え切れなくてその場を後にすると後ろからクスクスと笑い声が聞こえた気がした。
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