オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
その悲鳴や倒した椅子の音で、今度はあたしがカフェにいる全ての人から注目を集める。
奈々とメルさんもいつの間にか立ち上がっていて、どうした!? という視線が注がれる中、あたしたちのテーブルの周りだけが、一触即発の不穏な空気が一気に漂いはじめた。
「なんなんだよ、いきなり叫びやがって。うっせぇんだよ、この、ちんくしゃが!」
「……ち、ちんくしゃとは何よ!」
思わぬところからの竹山の登場と、ドスの利いた低い声の凄みに気圧されたあたしは、“ちんくしゃ”の意味もよく分からないのだけれど、そう言い返すのがやっとだ。
その言葉が使われた場面や、竹山の口調から、おそらく、あまりいい意味では使われない言葉だろうことは、察してあまりある。
けれど、重ねるけれど、今をおいて言う機会はほかにはなく、また、竹山が登場したことで直接言える機会も得たというわけで、あたしは今度は竹山のほうを向き、口を開いた。
「あのっ!あなた、愛菜を狙っているそうですけど、やめてもらえませんかね!」
「はぁっ!?」
「もうたくさんなんですよ!オトコの娘だってカミングアウトされるし、クリスマスは散々な目に遭うし、次はあなたにもうひとつの扉を開けられそうだっていうじゃないですか!いい加減、どうにかなっちゃいそうなんですっ!!」