オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
いくらゾンビのようにやつれてしまったとはいえ、最後は人間に返り咲き、すっかり生気を取り戻した先輩だ、終始、愛菜の姿を目に入れずにいたとは、どうにも考えられない。
普通に5人でドーナツ食べたし、あたしも特別気にしていなかったけれど、今になって思い返してみれば、オトコの娘をすでに知っていたような茨城先輩のあの様子は、あたしには、なんだか不可解なことのように思えたのだ。
「たぶん、茨城先輩に協力を頼むとき、奈々が全部話したんだと思うよ。じゃなかったら、彼氏だって紹介しても信じてもらえたかどうか、なかなか微妙なラインじゃん?」
「そっか。だよね……」
「うん。だって女装だもんね、これ」
「……」
自分のことを“女装”と言い、少し切なそうに笑う葉司に、すぐには言葉が出てこず、なんとも言えない気持ちになる。
ちょっと悲しいことに、世間一般には、まだそれほど“オトコの娘”という言葉やファッションが浸透しきっていないのが現状だ。
あたしだって、つい半年前までは知らなかったし、それこそオネェ系やゲイといったくくりのひとつだと思う人も、少なくないと思う。
そういった性と心の関係は、本当に奥が深い。