オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
「……ね、ねえ奈々、あたし風邪かも。なんだか急に寒気がしてきた。早く帰ろう?」
ヒソヒソ話の的になっている人物をなんとか一目見ようと、ピョンピョン飛び跳ねている奈々のコートの裾を引き、そう促す。
あたし的に、学生たちが噂しているワードのあちこちに妙な引っかかりを感じるのだ。
寒気の原因は、おそらくそれだろう。
葉司のことがあったばかりで“オトコの娘”に過敏に反応しているだけかもしれないけれど、メルさんの特徴によく似ていて、なんとなくあたしを待っているような気がしてならない。
「嫌よ。あたしは見たい」
「奈々……」
けれど奈々はなおもピョンピョンと飛び続け、あたしのことなどお構いなしだ。
そのうち人だかりをかき分けて前に進みはじめてしまって、なぜだか、あたしもそれにつき合わされる羽目になってしまった。
「……奈々!奈々ってば!!」
「うっさいわね、なによっ」
「あたしのバッグのチェーン、奈々のコートに引っかかってるんだって!なんでそんな毛むくじゃらなの着てくるかなっ……!」
いや、正確には、あたしが今、ヒステリックになりながら言ったことが正しい。