オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
 
メルさんが本当に申し訳なさそうな顔をして言うものだから、思わず頭を下げてしまう。

本当はあたしがお願いできる立場ではないのだけれど、そんなあたしにもメルさんはどこまでも優しく、そして懐が深かった。


「あっ、今、葉司君の手に触った!」

「うそっ!?」


すると、あたしと入れ替わるようにして今まで無言だった奈々が口を開き、あたしは弾かれたようにメルさんから愛菜に視線を向ける。

後ろ姿しか分からないけれど、竹山の格好は、ジャケットにパーカー、紫と白のチェックシャツ、ダメージ加工のジーンズとブーツという、街中で見れば、オシャレ男子そのものだ。

歳も愛菜やあたしと近いだろう。

けれど、愛菜に対する接し方にはやはり過剰とも異常とも取れる行動が目立ち、特に愛菜の手の甲にキスをしようとせんばかりに唇を寄せている図は、危険人物極まりなかった。


「ちょっ、メルさん、いいの!?」

「由々しき事態だわ。ごめんなさい、まことちゃん、奈々ちゃん。どうやらおしゃべりはこれまでのようね。ちょっと行ってくるわ」


呆気に取られて目を見開くだけのあたしに代わって奈々が言うと、メルさんは血相を変え、竹山のもとへ一直線に向かっていった。
 
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