オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
いつも優雅かつ妖艶な振る舞いのメルさんが小走りで竹山のところへ駆け寄ると、さっそく攻防戦の火蓋が切って落とされる。
少しだけ見えた竹山の横顔から察するに、こういう攻防戦は1度や2度ではないのだろう。
メルさんに対してでさえも、アズミのときと同じように「うっさい。黙れブス」と顔をしかめ心底迷惑そうな態度をしている。
そんな竹山とメルさんの攻防戦のうち、あたしたちのところまで聞こえてきた声はこうだ。
「お客さま、個人的なスキンシップは、当店では禁止しておりますの。きちんとした手順を踏んで頂かないと、ほかのお客さまのこともありますので、風紀が乱れてしまいますわ」
「別に愛菜ちゃんは嫌がってないけど?」
「そういう問題ではありません。あなた、相当なおバカさんのようね」
「ルールは破るためにあるの、知らないの?」
それからは、おそらく辛辣な言葉のやり取りが繰り広げられているのではないかと思う。
2人とも、口は休むことなく動いているのに声が全く聞こえてこず、目がマジで怖い。
呪いの呪文でも掛けあっているかのような、なんとも言えないドヨドヨした空気が漂い、近くにいる愛菜もアズミも、そしてあたしたちも、固唾を飲んで見守るしかなかった。