不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】

…約束(慈希)

僕は突然視界が遮断されたかと思うと、

次にはどこかに飛ばされた感覚があった。

目の前には、新幹線に乗り込む母を透明な仕切り越しに切なげに

見つめる漆黒のローブをまとった背の高い男。

自分の身に何が起こったのか、全く分からなかった。

しばらくその状況を把握しようと、辺りをきょろきょろした。


…目の前にいたのは、さっきまで母と一緒にいたはずの男だった。

僕はいつの間にかそいつの隣に立っていた。

「誰?」

僕はその男に向き合った。


男はさっきまでの険しい表情が緩み、穏やかな笑みをこっちに

投げかけてきた。


でも…

その表情からは好意より嘲笑する空気を強く感じる。

微笑みの中に潜む…

僕に向ける邪な心。この男は何者なんだろう?

「そういことだ。今はまだ早すぎる。時がきたらまた会おう」

『「…穂香を頼む」』

何が早いのかもわからないまま、彼が右手を振ると同時に、

僕の視界からその男が消えた…

ほんの数秒のできごとのはずなのに、忘れることのできない記憶。

それはこれから僕の身に起こることを暗示していた…

そして、用の終わったらしい僕もその場から消えた。

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