不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】
「名前はいつきにしたいの…」

出産してから、10日。退院する日の朝、ほのかはそう俺に言った。

産まれるまで、これがもしかしたら

最後の出産になるかもしれないという思いから、

医師にあえて性別を聞かなかった。

女の子もいいし、男なら瑞希と男兄弟になるだろうから…

どちらにしてもほのかと俺の子なんだから、

母子が心身ともに健やかであることが

何より重要だった。

そんな状態のまま臨月を迎え、子どもの大きさを見て入院日が決まったある日

「名前なんだけど…

候補がいくつかあるの。…

顔を見て決めたいんだけどそれでいい?」

とほのかに聞かれた。

瑞希は俺の希望という一字を取って俺が付けた。



「いつきってどういう字?」

そう聞くと

「慈希(いつき)人様に慈しまれ希まれる人になる」

という意味だと彼女は言った。

「他の候補は?」

「それ以外考えられないから」

彼女の思いは偶然か必然かあいつと同じだった。

俺は憤りを通り越してため息しか出なかった。


結局いつきで出生届を出した。

その帰り、雲一つない空を見上げて


『「まさとお前って何なんだよ」』


返答の帰ってこなくなった相手に、あたるように思うしかない俺だった。
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