不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】
今日の講演会は駅から少し離れた場所であった。

それが終わったので、私は人通りの少ない道を、

目的地までただまっしぐらに向かう。

もうすぐで駅だ。視界に入ってきた駅ビルの建物に夢中になっていた。


ドン。

誰かにぶつかり相手が持っていた荷物を道にばらまく。


はっとして、そっちの方に視線を向けて、

「急いでいるので…

ごめんなさいね」

相手に詫びだけして、そのまま立ち去ろうと思っていたが、

目の前の横顔に釘図けになり、私は目を見開いた…


「…」

相手の男もその空気を読んだのか、拾っていた荷物を落して

こちらをじっと強い視線で見上げた。

そんな…

まさか…


私は周りの景色がすべて色あせて見え、

ただ二人だけがこの世に存在するような錯覚に襲われた。

お互いしばらくただ見つめ合う。


そして…

「ほぉちゃん?」

と確かに私の名を呼んだ…

その呼び名は…

その呼び名は…

それを聞いた私は、心が瞬間で凍りついた。

そして、足に力が入らなくなりその場にうずくまる。


口から何かが溢れ出そうな気持なのに、喉元で詰まって何もでてはこない。

たぶん間違えないのだろう…
< 91 / 130 >

この作品をシェア

pagetop