腕時計


二人でデートのように街を歩く午後は、嬉しいけれど、嬉しくない……。
複雑な心境。

だって、今日は――――。



「悪いな」

少しも悪いと思っていない顔で、そんな事を私に言う。

「珠樹、センスいいからさ」

そう言いながら連れて行かれるアクセサリー売り場。

なんでこんな所に連れて来られたかと言えば、最近出来たばかりの彼女せい。
その彼女の誕生日が近くて慌てた俊弥が、プレゼント選びに私を連れ出したというわけ。

事細かく、彼女の容姿や性格を説明され、プレゼントを選んでる私って本当に間抜け。
なのに、俊弥の頼みだから。なんて考えると結局真剣になって選んでいる。

自分だったら、これがいいなんて言葉も呑み込み選ぶプレゼント。
本当に、間抜けすぎる。

大体、彼女のプレゼントくらい自分で選んだらいいのに。

そう思っても口にできないのは、そんな理由でもないとこうして二人っきりで出かけられないから。
情けないけれど、それが本心。


< 3 / 8 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop