毒舌に惑わされて
「付き合ってなくても一度寝てしまえば、芽生える気持ちがあるってわけだな。まあ、そういうのもありがちなことだろうな」


「うん。そうなんだよね」


「莉乃はどうなんだ?」


「えっ?」


聖也の手が私の頬に触れる。


「俺たちも同じじゃないのか?」


「あ…」


そうだった。私と聖也も付き合っていないのに、してしまったのだった。


「どうって、どうなのかな? 特に何もないと思うけど」


聖也のことをどう思っているかを聞いているんだよね?

私はあの日のことを少し後悔している。だから、特別な気持ちはない。


「何か変わったりしないのか?」


「何かって、何が?」


「お前、本当にバカだな」


聖也が呆れた顔をする。

そんな顔をされても、何も変わってないし。バカと言われるほどトンチンカンなことを言っているつもりもない。


「何でもそこでバカと言われなくちゃいけないのよ」


私の頬にまだあった聖也の手を掴んで、離した。
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