毒舌に惑わされて
「うるさい。静かにしろよ」


うるさいって、ねえ…としか言ってないけど。本当に何を考えているのかさっぱり読めない。


「聖也って、読めないよねー」


「勝手に人のことを読むとかするなよ。最低だな」


本当に口の悪い男だ。大体読めないと言ってるのに。ちゃんと人の話を聞いてくれないかな。

車内が静かなタクシーは私のマンションの前に到着した。


「じゃあね。おやすみ」


こんな居心地の悪いところは早く脱出しよう。


「待てよ。金払えよ」


「えっ?だって、聖也がまだ乗って帰るのでしょう?」


「ほんとバカだな。いいから、金。俺、持ってきてないし」


聖也こそバカでしょ? お金持たないでタクシーに乗るなんて。

でも、聖也の前ではなぜか小心者になってしまう私は思ったことを言えなくなる。


「で、何で聖也も降りるの?」


私がお金を払っている間に聖也は降りて、先にマンションに入っていた。

エレベーターに乗り、私の部屋の階を勝手に押しているし。


「よく覚えているわね」


「莉乃と違って、記憶力がいいからな」
< 94 / 172 >

この作品をシェア

pagetop