もしも、Ver.1



「せんせーってさー。奈々の時だけ伸ばさないよねー。」



「はぁ? ・・・なにが。」



職員室に向かう俺に、甘ったるい声がまとわりつく。




「だーかーらっ、名前だよー。
私の時とか『春日ー』って点呼とるのに、奈々ん時はふつーに呼ぶじゃん。」


「あー?同じだろ、別に。
『さいとう』って、もうすでに『う』で伸ばしてんだから。
そっから更に伸ばすとか気持ち悪いだろ。」



どんな理屈だよ、おい。

内心で自分にツッコミを入れる。





ぴったりくっついてくる香水の匂いを振り切るように足を速める。








正直、春日に言われるまで全然気がつかなかった。




女ってこういうとこよく気付くよな。

あー、怖え。




職員室のドアを閉め、俺はこっそりと、しかし深い溜め息をついた。







あいつのことは、意識しすぎてる。



だからこういう指摘はやめて欲しい。



余計に呼びづらくなるから。








今も「さいとう」って呼んだだけなのに心臓バクバクいってるし。




だっせー、俺。

ほんとだっせぇわ。






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