「わかってるってば」
ドアを開けたら、いつもの笑顔で、

こんな笑顔を今日あっさりリセットしちゃうなんて・・・

私は、ひとまず原稿を渡し、彼と夕飯を作り始めた。

柏木くんの料理は私は何故か好きで、こうやって一緒に料理を作ってみたかった。

柏木くんは、「座ってて・・・」って言うけど

なんかじっとしていられなくて、

慣れた包丁使いにただ見とれて、彼の横にいたかった。

今宵は少し、ムードのある感じで

私は、昨日から部屋作りにも力を入れた。

キャンドルが灯る食卓は、レストランのようで、

柏木くんの笑顔はよりいっそう素敵に見える。

もう、秋も深まるこの季節に、2人でビーフシチューを食べる。

そして、赤ワインも少々。ほろ酔いで私は気が少しだけ大きく・・・

口調も、自然と「ゆうき」って・・・

でも、大事な話はしなきゃ!って私は切り出した。

「あの・・・私の担当のことなんだけど、」

「はい・・・」ゆうきは不意打ちなのか、ビックリしているみたい・・・

「私、ゆうきとは自信がないっていうか・・・」

「他の女性の担当者に変えてもらおうかな。って」

「カラダもあまり自信なくってさ・・・迷惑かけちゃうから・・・」

ゆうきは「なんで?」「なんで?」って何回も聞いてくる。

私も、なんでかわからなかったけど、本当に自信がなかったから・・・

「大丈夫。」

ゆうきは「なんで」・・・からふと、言葉を変えてきた。

「大丈夫だから。僕が・・・」

「僕がついているから・・・」

私は、すごく嬉しかったけど、

すぐ返事は出せなかった。

普通の男女ならこのまま高まって、恋人のように寄り添っていくのだろうが、

今の私には、それもできず、

ただ泣きながら、ゆうきのビーフシチューを食べ続けた。

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