桜色ノ恋謌



ロケはサクサク進んで、今日の撮影は全部消化した。



時刻は夜の9時過ぎだ。



明日は朝から1日中室内での撮影だというから、明日も大変って言えば大変なんだけど。



控え室でメイクをし直して着替えてる最中、携帯が着信を報せた。


この着信音は恭哉からだ。



着替えをしつつ、携帯を片手に耳に当てた。


「…恭哉?今どこ?」

『まだ会社。咲絢がまだ飯食ってないなら、一緒にどうかと思ってさ』


夕食のお誘いだったか。撮影が通しだったからまだご飯食べてないんだよね。


「まだ食べてないよ。何食べたいの?」

『揚げ物食いてえな。咲絢は?』

「それでいいよ。どうしよ?どっかで待ち合わせする?」

『いや…お前、今日はロケだったろ?今からロケ現場に迎えに行くわ』

「はーい。気を付けて来てね」



通話は恭哉の方からプツリと切られた。



携帯をバッグにしまいこみ、控え室の前にいる鳥羽さんを呼んだ。



「恭哉が今から迎えに来るから、鳥羽さんは今日はもういいよ」



一瞬だけ、それこそ瞬きするだけの僅かな間。


鳥羽さんが切なげに目を伏せた。



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