桜色ノ恋謌
恭哉は怪訝な顔をして「どうした?」と、私の肩を優しく掴んだ。

忙しい恭哉を、私の我侭で振り回したくはない。

だけど。


「…鳥羽さん、もしかしたら私のマネージャー…降りるかもしれない…」



鳥羽さんに、見捨てられるとは考えられなくて。




[彼]はまた、あの時と同じように、身を引こうとしているのかも知れなくて。



私のために。



今回のことが、鳥羽さんには責任はないんじゃないかと、私は思う。

だけど、その判断を下すのは事務所の方だ。


撮影に穴を開けた。私の顔に、傷をつけた。他の仕事もキャンセルせざるを得なくなった。



それに責任を感じて鳥羽さんが私のマネージャーを降りるとしたら。


そんなの、許せない。



約束したじゃん。


二人で結果を出そうねって、あの時約束したじゃん。


鳥羽さん、私との約束を何も果たしてくれてないよ。

諦めないで、もう少し頑張ってよ。



悔しくなって涙が零れ落ちた。


「…咲絢が、アイツのために、泣く必要なんてあるのか?」


少し強張った恭哉の質問に、ふるふると首を横に振る。


私が泣いているのは、鳥羽さんのためじゃない。


今まで頑張ってきた、時間や感情…色んなことを思い出していたからなんだよ。





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