夢のまた夢【短編集】
アオイヒカリ

再会

久しぶりの帰省。
緑なんてちっともなくて
相変わらずごちゃごちゃとした
町並みにホッとしている自分が
好きだったりする。

古くからの友人たちと
食事をする約束をしていた。
何年ぶりだろうか。
少し無理をしてこの日の為に買った
新しいワンピースを身に纏い
駅へと向かう。
つい、気合いが入るのも仕方ない。
女子にとって友人との久しぶりの再会は
結構、重要な出来事なのだから。

するとーーー

「青野じゃないか?」

前からやって来たのは
高校時代、同じバレー部に所属し
密かに恋心を抱いていた先輩だった。

叶うことのなかった初恋の相手だった。

「大沢先輩」

「驚いた。青野、めちゃ綺麗になってんじゃん」

「そ、そんな……綺麗だなんて」

お世辞と分かっていても
嬉しさのあまり心臓が猛スピードで
動き出す。

「お世辞じゃないかんな?」

私の心を見透かしたように先輩が
笑いながら言う。
相変わらず爽やかな笑顔だ。

「先輩はお仕事の帰りですか?」

スーツをビシッと着こなし
現役の頃と何ら変わらぬ体型に
驚きついつい、まじまじと見てしまう。

「ああ……そうだな
仕事帰りーーだな。それよか
そんなにまじまじと見るなよ。
照れるだろーが。」

そう言いながら、私の頭をポンポンと
叩いた。

ーーードキンッ

高校を卒業して、もう何年も経つというのに
あの頃の先輩への思いが一瞬で甦る。

「青野、少し時間ある?」

「えっ?時間ですか?」

断る理由なんかなかった。
友人たちとの待ち合わせの時間まで
まだ余裕があるし
何よりも、昔、思いを寄せていた人との
偶然の再会。
私は断ることをしなかった。

「ほら、好きなの押せよ。
そこの公園で飲もうぜ」

道路脇にあった自販機に小銭を入れる先輩。

「あれ?おかしいなぁ」

「どうしたんですか?」

「いや、さっきから500円玉入れるんだけど
何回いれても、出てきちゃうんだよなぁ。
参ったなぁ」

「先輩、私、小銭ありますよ。
時々、ありますよね。そういうこと。」

そう言いながら、財布から500円玉を取り出す。

「わりぃ、じゃ、これな」

先輩はそう言うと持っていた500円玉を
私の財布に入れてくれた。

「そんな、いいのに。
缶ジュースくらい私でも奢れます。」

「缶ジュースでも後輩に
奢られたくないの、ほら、どれにする?」

先輩はコーヒー
私はアップルジュースを
押し、出てきた缶を取り出すと
すぐ側にある公園へと向かった。






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