俺を誘いたいのなら
そこまで欲しいなら、奪いに行けよ


 一旦小休憩をはさむ。大きな木の下で4人は座り込み、それぞれのお茶を手にする中、予告通り、美春は持ってきたお菓子を広げた。

「あ、慶介が好きなクラッカー、持ってきたら良かったねえ。忘れてた」

 笑って言っても、慶介は、ずっと無言。

「甘い物、嫌いじゃなかったっけ?」

 先生もちゃんと輪に入ってくれる。

「味の薄いクラッカーなら結構好きなんですよ、ねえ?」

 美春はやはり慶介を見つめてにっこり笑う。

「……」

 なのに、何も言わない。

「どうしたの? 疲れた?」

「別に……」

 慶介は、こちらのことなどどうでも良さそうに、ふいとペットボトルを元に戻し、立ち上がる。

「ささ、慶介の分も食べようぜ」

 誠はそんなことお構いなしに、クッキーにがっつき始めた。

 慶介は何も言わず、そのまま立ち上がって、歩いて行ってしまう。もう仕事をはじめるのかなと思ったが、がんじきを通り過ぎた。

 美春は心配になって、まだお茶が入っているコップをその場に置くと、後を追いかけた。

「ねえー! どうしたの? 大丈夫?」

走って追いかけるとすぐに手が届く距離まで縮まる。

「別に……」

「調子悪い? そういえば朝からあんまりしゃべらないよね」

 顔を覗き込んだが、顔色はいつも通り。

「いつ俺がだらだら喋ったんだよ」

「や、……まあいつもそんな感じだけど……」

「早く行けよ」  

 慶介はどこも見ずに冷たく言い放った。

「え、どこに?」

「アイツ、待ってっぞ」

「…………待ってなんかないよ」

 真剣な顔をしてしまうのは、慶介が遠くを見たままでこちらを振り返らないから。

「い……、今がチャンスだろ。茶でも注いでやれよ」

「そんなことできるわけないじゃん」

「……けど、アイツがいいんだろ?」

「…………」

「他に女がいるかもしんねーけど、そこまで欲しいんなら、奪いに行けよ」

< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop