きれいな恋ばかりじゃない
そのままお姫様抱っこで連れて行かれたのは、本屋の中。先輩はここでバイトをしているらしい。
そして従業員室の椅子に座らされて、救急箱に入っていた湿布と包帯で手当てをしてもらった。

「とりあえず、応急措置はこれで我慢して?」

「ありがとうございます!」

ビシッとキレイに巻かれた包帯を見て、先輩は手先も器用なんだなぁと感心する。

「体力には自信あったんだけど・・・犯人逃がしちゃった。ごめんね」

「いえ、そんな!カバンが返って来ただけでも奇跡ですからっ」

なんか変な感じ。
みんなの憧れの人と面と向かって普通に話すって、不思議。

「ん?俺の顔に何かついてる?」

「えっ!何もないです!むしろ先輩はいつでもカッコいいです!」

「え?」

あっ、つい本人にカッコいいとか言っちゃった・・・!
気まずいのと恥ずかしいのとで、一気に顔が熱くなる。

「君、俺のこと知ってるの?」

「もちろんです!先輩はうちの学年でも有名人ですよっ」

「同じ学校なんだ!」

なんだか微妙に食い違っている会話。だけど、そんなの気にしてる余裕はその時の私にはなかった。

「名前は?」

「あ、え、大塚奈美です」

「奈美ちゃん、ね。よろしく!」

にこにこ人懐っこい笑顔でそんなこと言われたら頷くしかないよ・・・。

それから少し話をして、ちょうど私が引ったくりにあった時、シフトを上がる時だったらしくて。
家まで送って貰える事になった。

王子様スマイルでちょっと強引に。


それからのことはーー今でも思い出すだけで恥ずかしいっ。
二人乗りの原付の後ろに乗って、先輩の腰に抱きついて。心臓麻痺で死ぬかと思った。

それから先輩は学校内で見かけると挨拶してくれるし、休み時間の見学に行くとたまにジュースをくれる。

そういう訳で、私は絋斗先輩が大好きなんだ。


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