Sympathy For The Angel
「……で?アンタの兄貴がどうしたって?つーか、アンタ幾つよ?」

威圧感たっぷりにエリカが美優紀を睨み付けた。


「あ…あの、私は南中の二年生…です。えと、兄が半年ぐらい前に、紅蓮に入って…。それで、私も皆さんと一緒に紅蓮を守りたいな…なんて思ったん…です、けど……」

「エリカ。威嚇すんの止めな」


おどおどとエリカの顔を見ながら話すから、ただでさえ血色が悪い美優紀の顔が今や蒼白に近いじゃないか。


「兄は、私のたった一人の肉親ですし、無茶をしないように側で見ていたいんです……」

「悪いけど、蘭は紅蓮を抜けたんだ。だから今は、うちらは紅蓮とは無関係だと思ってくれていいよ」

「っ……でも!蘭の皆さんは、紅蓮の人達とは繋がりがあるんですよね!?だったら私も入れて下さい!!お願いします!!」


美優紀は泣きそうな顔で、床に頭を擦り付けた。

顔色も悪いくせに。大体、暴走族なんて荒事とは無縁の世界で生きてきただろうに。


この子は何を守りたくて、こんなに必死になれるのか。


「………美優紀は、蘭には入れないよ」


無機質に、頭を下げる美優紀に向かって私はそう言った。



「蘭だけじゃない。今からこの辺りは騒がしくなる。自分の身も守れなさそうなコを蘭に入れても、何のメリットにもならないんだ」

「……どうしても、ダメ…ですか……?」


絶望的な瞳で、美優紀は私をみつめた。


「………蘭には入れないけど」

隣でエリカがみじろいだ。

「私の家でハウスキーパーやってくんない?ちょうど欲しかったとこだったんだよね」

「ちょ、椿!?」


怒り狂うエリカを無視して、私は美優紀に更に質問した。


「美優紀。アンタ今、どこに住んでんの?」

「施設にいます。兄は半年前までは一緒に住んでいたんですけど、紅蓮に入ってからは施設から出ていきました……。両親は……っ…亡くなりました……」

「そ…か。施設の人達は、良く世話してくれてる?」

「まあ、はい。それなりに……」


一瞬、美優紀の顔が曇ったのを私は見逃さなかった。

恐らくは悪意などなくとも、多少は居心地が悪い生活をしているであろうことは、想像に難くない。


「私の両親に話をつけるから、美優紀はそれまで連絡を待っててくれる?」

そう言いながら、私の連絡先を紙に書いて美優紀に渡した。






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