桃橙 【完】
「…嫌です。重蔵さんの所にお嫁に行くくらいなら雅は死んだほうがましです」



キッと強い瞳を向ける。


この強さは、母親譲りだな、と由連は思った。



「…少しの間でいいんだ。今どうしても重蔵さんの手を借りないと会社がつぶれてしまう、だから」


「つぶれればいいのです」


「……なにっ?!」


「そんなっ、娘を犠牲にしなければならない会社など、潰れてしまえばいいっ!」



雅がそう叫んだ途端、パンッと頬に熱いものが走った。



「雅っ!お父様があなたを憎くてそうするとお思いですか!恥を知りなさい!」


「……お母さま…」


「いいこと?1年もすれば離婚をしてもいい。そう重蔵さんもおっしゃっています。だからお願い。雅…」


「嫌です」


「どうしてっ!母の言うことが聞けないのですか」


「なら!お母さまが重蔵さんのところに行けばいいのです!」


「……雅…」


「あの重蔵さんのところに1年でいい?冗談もやめてください。1年…いえ、3日だって嫌です。1年もいたら私の体はどうなるかわかりません。そんなにもお父様が大切なら、お母さまが行けばいい」


「なんてことを言うんだ!雅っ!」


「お父様も、お母さまもっ!一体何が大切なのです!」



雅の叫びに2人は黙り込んだ。
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