桃橙 【完】
「安芸」


「はい」


「この男は、安芸を苦しめたか?」


「………」



安芸は、蔵宇都を見つめた。


顔は俯いていて、表情は読めない。



「…いいえ。いつも温かく、見守っていてくださいました」


「……っ、」



安芸の言葉に、僅かに蔵宇都が拳を握る。



「蔵宇都は、春河家に…?」


「いや、夜の仕事をしているところを陶弥に連れてきてもらった」


「夜の仕事…?」



私の投げかけた疑問に応えることなく、総さんは優しく笑って顎で蔵宇都の方を指した。



「…蔵宇都」



安芸は、ゆっくりと蔵宇都に声をかけた。
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