桃橙 【完】
そのうちに、震える手で安芸は俺の手を掴んだ。


まるで、耳の奥に響くこの水音に耐えられない、とでもいうように。



「さ…触って…くださ…」


「こんなにも、触れている…」



そのまま、耳たぶを甘噛みして、ぺロリと首筋を舐め上げる。


それだけで安芸は「あぁ…」と小さな声を上げた。


俺の手を掴む手に、汗ばんだ力が篭る。



「総さん…お願い…」



俺の頬に唇を寄せて、泣きそうになりながら懇願する安芸。


優しくしてやりたいのに、酷く苛めてみたくなる。


…こんな感情は初めてだった。



「…お願い?」


「ん…、うぅ…」



堪らなくなったのか、俺の唇に自分の唇を寄せる安芸に、愛しさで目を細めてそれに応える。
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