桃橙 【完】
――…そう


今、私が一緒に暮らしているのは、死んだと思っていたお母さんと。


そして、それも―…



「ねぇ、安芸。あんた明日休みだったわよね?」


「え?はい」



私は、お母さんの紹介で、近所のスーパーで働いていた。



「姉さんの墓参りにいこっか」


「はい…」



お母さんの気遣いに、感謝を込めて頷いた。


お母さんと思っていた明子さんは、本当はお母さんではなくて。


私の本当のお母さんは明子さんのお姉さんの陶子さん、と言う人だということを、一緒に住み始めてすぐに教えてくれた。


それでも、すぐにずっとお母さんだと思っていた人をお母さん以外の呼び名でなんて呼べなくて。


結局、お母さん、と呼んでいたのだった。


そのことに関して、お母さんは、最初は戸惑うように笑っていたのだけれど、今では当たり前のように私の「お母さん」の言葉を受け止めてくれていた。
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