桃橙 【完】
「荷物はこの鞄一つなの?」


「…はい。あの、駄目なんですか?」


「あ、いや…そんなことはないけど」



とても不思議そうに俺の瞳を覗いてくる水嶋さんに、俺は胸を突かれた。



「じゃあ、着替えとかもない?」


「着替え、は…」


「ないんだね?」


「はい…」



まったくなんて彼女なんだろう、と俺は思わず苦笑いを零してしまった。



「じゃあ、買い物に行こう」


「買い物…?」


「そう、買い物」


「なにを、買うんですか?」


「え?着替えとかベッドとか…色々必要でしょ?」


「………」



なんでそんな困ったような顔をするのだろう。


俺は、初めての感覚に戸惑いを隠せなかった。
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