桃橙 【完】
「あの、別に…用事がなかったので…」


「用事がないって…飯は?飯はどうしてたんだよ!」



どうしてか、だんだんに声が大きくなっていく陶弥さんに、慌てて話した。



「ご飯はっ、陶弥さんと買ったもので充分…」


「お前なぁ…っ!あんなの3日ももたねぇだろうが!何食べて生きてたんだよ!」



陶弥さんの剣幕な顔を見ていると、自分が何かひどくとてつもない悪いことをしてしまったのだと悟った。



「…すいませんでした」


「……安芸」


「ご飯は、十分足りています。…2、3日食べなくても、私は…こんな温かい部屋に住ませていただいているだけで、ありがたくて…」



陶弥は戸惑っていた。


隣とは言え、いくら自分の名義だとはいえ、彼女に貸した以上は深く立ち入るようなことはしようとは思っていなかった。


けれど、3日経った頃だろうか、全然外に出ている気配もなく、部屋に電気がついていることも少ない。


心配か、不安なのかどちらの気持ちとも取れないまま、マンションのコンシェルジュに、安芸が外に出た時は報告するようにと話をしていた。


けれど、一週間経つ今でさえ一度たりとも外に出ていないと言われ、陶弥は慌てて安芸の部屋に合鍵を使い入ったのだった。
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