桃橙 【完】
「安芸」
何度も繰り返し呼ばれるその声に、徐々に意識が覚醒していく。
「陶弥、さん…?」
霞んだ視界に映ったのは、黒い前髪が瞳にかかった陶弥さんだった。
「どうか、したんですか…?」
私は、ゆっくりと身体を起こして陶弥さんに向き合った。
「どうした…って、お前家から出てるのか?」
「…出てる?」
「この家に住んでもう1週間だろ?…それに、俺がここにいることにも何の疑問も抱かないのか?そんなのおかしいだろう?」
「………」
陶弥さんの言いたいことが、寝起きということもあり、よく理解できない私には、黙ることしかできなかった。
「あぁ、いい。いいから。安芸、この一週間何してた?」
「…なに、って…」
「ずっと家にいたのか?」
「はい…」
どうして、陶弥さんがそんなに苦しそうな顔をするのだろう。