ものがたりのつくりかた
 
ちょっと書いてみた。

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*一人称

「千鳥」
 温度を感じない呼びかけに私は振り向いた。
 声でわかっていたから、ぬりかべのような男が私を見下ろしていても驚かなかった。
 女子高校生の平均身長を大きく下回る私は、大抵の相手を見上げなければならないけれど、志垣はまた格段だ。
 90度以上も首を曲げないと顔を視界に入れることもできない。
 ときどきイラッとして、お前しゃがめよ! と命じたくもなる。いや、そのまんま言ったこともあるけど。
 しかしテストが終わったばかりで気持ちにゆとりがあった私は、目の前に立ちふさがるぬりかべを心優しく受け入れてやることにした。
 異論は認めない。
「どしたの志垣」
「担任に呼ばれてるから、今日、部活」
「りょーかい、部長に遅れるって言っとく」
 端的に過ぎる言葉を拾って意図を読んで答えると、小さく頷いてヤツは私の頭を掻き回した。
「やめっ首がもげるっ」
 小さく笑って、じゃあと手を振った志垣にこちらも手を振り上げて、またなと合図を送ると、廊下の端に避難していた友人たちに向き直った。
「なにしてんの」
「いや、だって」
「なんかさあ」
「ねえ」
 意味わかんないぞ。


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*三人称

「千鳥」
 温度を感じない呼びかけに千鳥は振り向いた。
 声で相手がわかっていたから、ぬりかべのような男が彼女を見下ろしていても驚かなかった。
 女子高校生の平均身長を大きく下回る千鳥は、大抵の相手を見上げなければならない。志垣はまた格段だ。
 90度以上も首を曲げないと、彼の顔を視界に入れることもできない。
 ときどきイラッとして、お前しゃがめよ! と命じたくなる――と千鳥はいささか獰猛に思う。いや、そのまま言ったこともあるのだが。
 しかしテストが終わったばかりで気持ちにゆとりがあった千鳥は、目の前に立ちふさがるぬりかべを心優しく受け入れてやることにした。
 異論は認めない、そう頷きながら。
「どしたの志垣」
「担任に呼ばれてるから、今日、部活」
「りょーかい、部長に遅れるって言っとく」
 端的に過ぎる志垣の言葉を拾って千鳥が意図を読み答えると、小さく頷いて彼は彼女の頭を掻き回した。
「やめっ首がもげるっ」
 千鳥の文句に小さく笑った志垣がじゃあなと手を振った。お返しに手を振り上げて、またなと元気に合図を送る。
 そして彼女は廊下の端に避難していた友人たちに向き直った。
「なにしてんの」
「いや、だって」
「なんかさあ」
「ねえ」
「意味わかんないよ」

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