椿山亜季人の苦難日記
会議室を後にして、私は大量のアンケート用紙を持たされて、教室へ向かっていた。

授業が始まって5分すぎ。
廊下に生徒の姿はなかった。


先を歩く、大きな背中を眺めていた。少し、寝癖が残っていて、なんだか可愛らしい。


吉原先生が、口を開いた。

「田崎のせいで遅れたんだからなぁ、おまえ、皆に謝れよ。」

また嫌味…。

一度も振り返らない彼の表情は、分からない。
声は、やっぱり低くて、強い。

でも、昨日ほど、怖くはなかった。


「田崎」

「はい?」

「肩は大丈夫か?」

振り向きもせず、そのまま先生は言った。


「はい…大丈夫です。」


私は驚いていたのだ。彼の優しさに…。


「嫌なときは、はっきり言えって言っただろ?悪い癖だ。


痣になったら、アイツに文句言いに行くぞっ」


ブツブツと言いながら歩く、先生。


今も彼は、無表情なのだろうか。

どんな顔か見てみたい。



「先生、ありがとうございました。」


「ああ、どういたしまして。」


片手を軽く振って答える。



この時から、私は、


許されない感情を持ち始めていた。


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