送り狼
物語のはじまり

子供の頃、毎年お盆になると

家族揃って田舎のおばあちゃんの家に帰省していた。



おばあちゃんの家は、山と田んぼに囲まれた本当にのどかな田舎町で、

帰省すると、私は決まって

綺麗な小川で泳いでみたり、
おばあちゃんの畑の手伝いをしてみたり、
山で蝉捕りをしてみたりして、一夏を過ごしていた。

それらは、都会育ちの私にとって、とても新鮮で

毎年楽しみにしていた行事の一つだった。




そしておばあちゃんの家に行くと、夜眠る時、必ずしてくれたおとぎ話がある。





それは、おばあちゃんの住むこの辺りでは昔から語り継がれてきたお話なんだそうだ。





ーーそれが





ーー「送り狼」







昔々、まだ神様と人との距離が今よりもっと近かった頃、

山神様の住むこの辺りでは、

山に入った子供や猟師が度々神隠しに遭っていたそうだ。

そこでいつしか建てられたのが犬神様の社。


山神様の使者である犬神様は、

山神様に魅入られ、道に迷ってしまった人達を

元の世界まで送ってくれる、助け神でもあったのだ。


それから、山に入る人達は無事に帰って来れるようにと、

犬神様に供物をお供えして、お祈りするんだとか。




そして…



おばあちゃんはさらに、魅力的な物語を付け加えた。




「おばあちゃんはね、犬神様に会ったことがあるんだよ」




暑い夏の夜に、おばあちゃんが聞かせてくれたお伽話。




私はこのお話が本当に大好きで

よくせがんでは、おばあちゃんに繰り返し語って貰っていた。



「真央(まお)は本当に犬神様が大好きなんだねえ」




そう嬉しそうに微笑み、何度も語ってくれるおばあちゃんが



私は本当に大好きだった…





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