送り狼

「君…

 どうして山神様と会おうと思ったの?」


それは抑揚なく、無表情でまるで人形のような喋り方だった。

良くも悪くも、感情豊かな鳴人とは思えないような、冷たい響きに、

私はゾッとした…。


「……昔…何があったのか…
 
 山神なら知ってるんじゃないかと思って…」


「……ふーん……

 じゃぁ、全部思い出した訳じゃないんだ…」


ーー思い出す??

私は鳴人の言葉に引っかかりを覚える。


だって…

『思い出す』なんて言葉は、私に夏代子の記憶があるという事を

知ってないと出て来ないと思う…。

一体鳴人はどこまで真実を知っているのだろう?


「…鳴人…

 あんた、一体どこまで知ってるの?」


「………」


緊張がこの場を包む…。


「…さぁ?それもいずれ解るんじゃないの?」


冷たく、素っ気ない言い方だった。

それは、これから知る真実の根深さを示唆させるような響き…。


真実は私が思うより、もっと複雑に絡み合っているのかもしれない…。

この優しく陽気だった鳴人までをも巻き込んで…。


「ついたよ。降りて」



私は、鳴人の指示に従い、山神が鎮座しているであろう御神体の間を目指す。

朝だというのに、相変わらず御神体の間へと続く道中は異様な雰囲気を漂わせている。


その不気味さときたら、私の決意までも折ってしまいそうだ。


私は、何度も頭を左右に振り、折れそうな決意を必死に支えていた…。


「……山神様…人柱を連れて参りました…」


立派な彫りが施された重厚な扉の前…。

嫌でも私の緊張は高まる…。


ずっと緊張のしどおしで吐きそうだ!






 
 






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