送り狼


長い乱暴な口付けに、身体から力が抜ける…。




何故、私がこんな目に合うのか…。




ダメだ…。

…もぅ、何も考えられない……。




無抵抗になった私にようやく満足したのか、男が私からゆっくり離れる…。


酸素不足だった身体に、一気に血が巡ったその時……




「ドンッ!!」




おもむろに男に突き飛ばされ、私は派手に尻もちをついた。


突然の事に私の頭の中には『ハテナマーク』がいくつも浮かぶ。



どうして、私は突き飛ばされたの?



ーー意味わかんないっ!!



地面に打ちつけた腰をさすりながら、男を睨む。




「ちょっと…!!何するっ…」




「忘れるなんて許さんぞっ!!お前が忘れたと言うなら

二度と忘れぬよう、この俺がその身体に刻み付けてやる!!」



私が言い終わる前に男が言葉を被せてきた。




「…………。」





地面に転がっている私を、男は上から睨みつける。

その瞳は、どこか辛そうにも見える…。




……だけど……




思いっきり何か勘違いされてる!?




「…あの」





重い沈黙の中、私から切り出した。




「落ち着いてあたしの話を聞いてくれます?」



彼は無言で私を睨みつけている。



こんな事をされて、怒鳴りつけてやりたいのは山々だったが

相手がだいぶヤバそうなだけに

出来るだけ刺激しないよう落ち着いた口調で続けた。



「本当にあたしは、あなたを知らないんです…。」



彼の瞳が大きく見開かれる。



「まだそんな事を言うか!?夏代子!!」



今にも飛びかかってきそうな雰囲気だ!


なんて凶暴な男だ。

勝手に勘違いされて、殴られでもしたらこっちは堪らないっ!!


私はすかさず静止をかける。




「はいっ!ストーップ!ストーップ!!夏代子って誰!?」



彼の切れ長の瞳が、これでもかっていう程、丸くなったのが私にも解った。



「……………。」



やれやれだ…。。


そんな彼に、あえて私は同じ言葉をもう一度繰り返した。


「夏代子って誰??」



私と男の温度差を確かめるように

二人の間に緩く生温い風が吹いた。


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