送り狼

私の話しが終わる頃には、すっかり雨は上がっていた。

雲の切れ間から、夕日が差し込む。

青々とした木々や野草からは雫がぽとりと滑り落ち、雨上がりの紅い太陽がそれを照らし、

まるで宝石のような輝きを放っていた。

夕刻時の紅い世界。


銀狼はひたすら沈黙を守り、私に背を向けていた。


「銀狼、おばぁちゃんは、本当に銀狼を愛していたんだよ…

 これだけは解ってあげて…」

彼に解って欲しくてそう言葉をかけた。

…しかし…

その言葉は真実を受け入れようとする彼に、余りにも軽薄すぎた。

「…愛していた…だと…?」

長い沈黙を破って銀狼が口を開く。

「…それは本当に愛なのか…?

 勝手に決めて、勝手に去って行き、勝手に消えたそれの何処に愛があるっ!?」


銀狼の背が怒りに震えている。

「…銀狼…」

「…夏代子は…消滅したっ!!」

銀狼がこちらに向き直る。

血の気の引いた蒼白な顔面に、金色の瞳が余計にギラついて見える。

「頼みもしないのに、よくもここまで調べあげてくれたなっ!

 それを聞いて俺が喜ぶとでも思ったか!?」

銀狼の瞳が揺れている。

「ち、違うよ!銀狼!!」

「何が違うんだっ!?

 …もう、二度と巡り合う事が叶わないのなら、夏代子に会えないのなら

 俺の命なんぞ、ドブに捨てて構わなかったんだ!」

銀狼の瞳がゆらゆら揺れて、歪んで行く。

「…こんな真実なら…

 知らなくて良かった!!」

その場に足元から崩れ落ちる銀狼。

地面に顔を擦り、固く握った拳を地面に叩きつける。

銀狼のその言葉は、私の胸に深く突き刺さった。

嘆く銀狼の姿が痛くて、痛くて…思わず言葉が奮える…。

「…おばぁちゃんは、そうは思ってなかったよ…
 
 輪廻の輪から外れてまで、銀狼に伝えたかった真実だったんだよ…

 だから…だから、そんな風に言わない…で…」

頬を滑り落ちる雫の感覚…。

「…お前、何を泣いている?

 これでお前の役目は果たせたのだろうっ!?

 最初からお前は嫌がっていたものな!

 その涙は同情のつもりかっ!!」

顔を上げた銀狼の瞳もうっすら滲んでいるように見えた。

その滲んだ瞳は、明らかに私を嫌悪していた。

それが…本当に…辛かった。

「同情なわけ…ないじゃないっ!」

次から次へと、雫だけが私の頬を滑り落ちて行く。

「同情でなく、何だと言うんだっ!?

 もう良いっ!夏代子でないお前になんぞ、興味はない!

 今日限り解放してやる!

 何処へでも行くといいっ!!」

銀狼の瞳が燃えている…。

私の…

私の一番聞きたくなかった言葉が、銀狼から無情にも放たれた…。




 
 

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