送り狼

鳴人の話によると、

犬神の社には今後近づかない方が良いという事で、

鳴人と小川で別れた後、私はおばあちゃんの家に戻って来ていた。

もちろん、私もその意見には賛成だったので大人しく従った。

別れ際彼は


「もし、何かあったらいつでも連絡して」


と、メモ用紙にサラサラっと自分のケータイ番号とアドレスを書いて渡してくれた。



日が傾いて、また夏虫が煩く鳴き出した頃、

心細くなって頼りの綱であるケータイを見つめる。



…………………。



…………表示は『圏外』…………。



「やっぱりね……」




こうなってみると、彼の親切心さえ恨めしく感じてしまう。

ここには、おばあちゃんの遺品整理で来たはずなのに、到着2日目にして、何も進んでいない。

ただ一日、ゴロゴロとボンヤリ過ごしていた。


ーーこんな恐怖体験するぐらいなら来なきゃ良かった……。おばあちゃんのせいだよっ!


そう思って、化粧台の写真たてに目をやった。

写真の中の私ソックリなおばあちゃんは無邪気に笑っている。



ーーじゃなくて、私がおばあちゃんに似ているのか…。




「……………………」



ーー……あれ……??



私は、『ある事』に気づいた…。


それを確認しようと、勢いよく身体を起こす。


写真立てを化粧台からひったくり、手に取って覗き込んだ。


「……………。」



………おばあちゃんの隣に写っている人って………。



顔は狐面に隠されていて確認出来ないが、長い髪に、この背格好……。



「………もしかして…、銀狼??」




………そんな訳ない……よね……?




「おばあちゃんはね、犬神様に会った事あるんだよ。」




ふいにおばあちゃんの言葉を思い出す。


私は、夜毎、おばあちゃんから、犬神様の物語を聞いていた。

私も大好きだった犬神様……。


ーーなんで大好きだったんだっけ??


おばあちゃんからいろんな話を聞いたはずだ…。




それなのに………



ーーー……思い出せない。






「キーーーーーーーン」


突然、頭に金切り音が鳴り響いた。



ーー何っ!?耳鳴りっ!?


頭が割れるように痛い!

金属音が、頭に鳴り響く。

余りの頭痛に体を丸めた。

目から見える風景が、端から黒く侵食されていく…。



ーーヤバイっ!気を失いそうっ!


目の前が、とうとう黒で覆いつくされた時だった。



「……真央………。」



金切り音を押しのけて、声が響く。



ーーあの声…だ……。



真っ黒な視界にあの光の玉があらわれた。

不思議な感覚だった。

目で見てるわけじゃない。

頭に浮かんで来る光景でもない。

瞼の裏で見ている…といった感じだ。



「真央…、思い出して…」



ーー……何を……??



何を思い出せというのか…。



頭を働かせようとするが、何かに邪魔をされているようで、考えられない。


どんどん意識が遠のいて行く。



「真央…大丈夫だから…」



ーーまた、あの言葉……。



光の玉は一度大きく左右に揺れた。

そして、どんどん大きくなって…




私の中に入ってきた…。




ーーああ……、なんだか、とっても気持ちいい………。




私の意識は、そのまま遠のいて、やがて何も感じなくなった。















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