送り狼

無言で階段を登りきると、また新たな鳥居が私達を迎えた。



その鳥居は最初に通ってきた立派な石造りの鳥居とは違い、

古びた木製の物でこじんまりとし、簡素な造りになっている。


そしてその鳥居をくぐると

暗がりの先にもう一つの社が現れた…。


神社では、こういう造りはけして珍しくない。

大きな神社やお寺では、大抵2、3人の神様を祀っているのが普通だ。



……しかし……。


ここは、本当に静かだ……。

下の祭りの華やかさなんて

ここには関係ないぐらいに

静かで…薄暗い……。



どこか……異様ささえ感じさせる……。



鳴人は、社の中へ当たり前のように入って行く。



「えっ!!ちょっと…!!」



前を進む鳴人に静止の声をかけた。



「……ここ、神様を祀ってる所でしょ??

 私が入っちゃっていいの??」

 
鳴人は、私の声に足を止め

ニッコリ微笑んだ。


「いいの、いいの!今夜は特別な日だし……。

 それに、真央ちゃんも……特別だからね」


「……あたしが、特別…??」


何??


どういう意味??


鳴人の言ってる意味が解らない。


「いいから、上がって??直期に花火の上がる頃だよ」


鳴人は変わらず微笑んでいる。



鳴人に言われるがまま下駄を脱いで社に上がると、

正面には鏡が祀ってあった。


鳴人はそのまま、さらに奥へと続く廊下へ進んで行く……。


私は、こういう事には疎い方だが、

ここから先は、一般人が足を踏み込める場所じゃ無い事ぐらいは

なんとなく解る…。


多分この先は御神体とか祀ってる所だろう………。



「ね、ねぇ、本当にいいの??

 ってか、なんかちょっと怖いんだけど……」


「大丈夫だって。怖い事なんて何も無いよ??

 だって神様を祀ってる所なんだから」


…それは、そうなんだけど……。



鳴人はニコニコと微笑んでいる。




さっきから変わらず鳴人は微笑み続けている。





………が………、







笑っている鳴人に何処か違和感を感じる……。

 

妙な感覚を覚えながらも

私は黙って鳴人に着いていく……。


古めかしい細い廊下を通り抜けると


凝った彫りを施された、

けして煌びやかでない木製の本殿が姿を表した。



「さぁ、どうぞ」


鳴人は本殿の入り口の引き戸を開き、

目で、私に先に中へ入るよう、そくした。


私はためらいつつも中へ入る。


室内は真っ暗だ。



「鳴人、真っ暗だよ??電気つけてよ」


そう言って鳴人に振り返った。



「………電気なんて…必要ないよ。

真央ちゃん、しばらくここに居てね」



鳴人は笑っている。




先程から感じていた違和感……。






鳴人は……





口の端だけ吊り上げて、



笑っていた……。



茶色の愛くるしい瞳は



ビー玉のように無機質に私を映している…。





彼の瞳は決して笑ってなどいない……。













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