どこからどこまで
『"なかよく"、ね……なんかあった?』

「えぇ~?なんもないって」

『そ?まあ、あんまり翔ちゃんを困らせないようにしなよ。あと"ありがとう"って伝えて』

「はいはい、わかってますよ…」


 弟よ、なんて鋭いんだ。

 ヒヤヒヤしながらケータイを持ち直す。アパートまであと少しだ。


『大学生って夏休みいつから?』

「んー?8月、だったかな。たぶん」

『帰ってくるんでしょ、実家』

「9月はねー。8月中はちょこちょこ授業あるからこっちにいるかな」

『じゃあ泊まりに行っていい?』

「え?どこに」

『沙苗ちゃんと翔ちゃんのとこ』

「いいけど…こっち来ても遊べるようなとこなんもないよ?」

『いーよ、全然。あ、電車きたから切る』

「はーい、お母さんたちによろしく」


 返事は聞く前に耳を離した。通話終了後のツーッツーッという音が、あたしは嫌いだ。

 夏休み、か。

 まだ気が早いかもしれないけど、楽しみだな。

 夏休み前にテストがあるというなんとも頭の痛くなる現実は頭から追いやって、あたしは梅雨知らずの空を仰いだ。
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