どこからどこまで
 それでも今日は、少しずつかわれる、そんな気がした。

 今朝の沙苗は明らかにおかしかった。いつもの沙苗じゃない。

 誰かに何か、言われたかな。

 この様子を見ると本当に眠かっただけなのかもしれないと、そんな気もしてくる。が、確実に、それだけじゃないと思ってしまう。

 誰かに俺とのことを話して、否定されたのではないだろうか。


"いとこだからって仲がよすぎやしないか"

"おかしい"

"変"


 これはあくまで想像だが、そんなことを言われたのではないだろうか。

 沙苗が俺を意識したことなんて、おそらく今朝が初めてだ。

 味噌汁を味見した小皿、額にあてた手。

 少しでも、いとことしてではなく男として見てもらえたなら、ハッキリ言ってかなり嬉しい。

 でも、だからといって変に距離を置かれるのだけは嫌だ。絶対に嫌だ。

 今の関係を崩すわけにはいかないのだ。つかず離れずの関係を保つのがやっと。

 そばにいられればそれでいい、結局行き着く場所は、そこ。

 今の関係をどうこうしようだなんて思い切れない。

 沙苗を大事にしたいから、だなんて綺麗事はもう自分の中では通用しない。沙苗のことはもちろん大事だ、大切だ。

 ただ、そう思う以上に沙苗が離れているのが怖くて、沙苗に嫌われるのが怖くて、自分が傷つくのが怖くて、たまらない。

 それでも沙苗を想うことをやめられないのは、なぜなんだろう。もう何年も同じようなことをグルグルと考えているはずなのに。自分が不思議で不思議でしかたない。

 本当に、どうしようもないな。俺は。

 頬に触れたままにしていた手を離した。

 沙苗は知らない。俺がこんなことを何年も何年も考え続けていることなんて。

 いっそ、知られたくない。

 まだまだ夕飯には早い。たたみかけの洗濯物に手をつける気にはならなかった。

 こうやって沙苗の顔を眺めているうちに、ゴチャゴチャと考えていたことがどうでもよくなっていく気さえする。いつもいつも。そうやってまた、しばらくすると俺はグルグルと考え始めるのだ。どうしようもないことを。

 こたえをだすために必要な言葉はきっとひとつしかなくて、とてもとても、シンプルなのに。


「沙苗、」


 すきだよ。
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