どこからどこまで
 そうだよなあ、あまったれてちゃだめなんだ。

 それでも目の前にある現実から目を背けたくなるのも事実で。


「翔ちゃんにカノジョかあ…」


 それは課題然り、翔ちゃんに関する事柄然り。


「なに、しみじみしちゃって」

「なんか想像できないなって」

「自分が彼女になった場合も想像した?」

「やだな~、やめてよ。いとこだよ?」

「よかったじゃん、兄妹じゃなくて」

「兄妹みたいなもんだよ」

「ほんとに兄妹だったら近親そ、」
「ちょっとねぇさんストップ!」


 ケラケラと笑いながら"純だな~、さなは"と言うさこねぇに苦笑しながら自分の定位置に戻る。

 機会があったら聞いてみようかな、高校生のときに聞いたことと同じこと。今なら違う応えが返ってくるかもしれないし。

 もし"そうなった"とき、あたしはどうしたらいいのか、ということも。

 なんだか少し、寂しいけど。


「……翔ちゃんのことなんかより、今は課題だー………」

「"なんか"とか言っちゃっていいの~?」

「今は単位の方が大事だよ………」

「あっは、目ぇ死んでるし」


 明日…というか、日付が変わっているからもう今日なわけなのだが、確か今日の1コマは出席をとっていなかった気がする。

 このまま朝まで描き続ければ、少しはマシになるだろう。そして2コマが始まる時間まで寝ていよう。

 芯の短くなった鉛筆をカッターで削りながらプランニング。高校生の頃に下手くそだと言い切られたカッターによる鉛筆削りは大学生になった今でも状態していない。


「あたし、そろそろ仮眠とるけど」

「わかった~。どうする?起こす?」

「んー、じゃあ1時間」

「はーい」

「さなも無理しないで、ちょっとは寝ときなよ」

「はーい」


 寝袋の中に入ったさこねぇを確認して、再びモチーフとにらめっこだ。

 1日が48時間ならいいのに。

 食べなくても寝なくても、生きられる身体だったらいいのに。

 もしそうだったなら、課題にも時間をたっぷりかけられる。

 考え事をする、時間だって。

 不毛なことを考えながら、鉛筆を走らせる。シャッシャッと鉛筆が画面にこすれる音だけが響いた。

 静かすぎる夜が、少しだけ怖くなった。
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